第五場 セルバンティス邸 A カーテン前

セルバンティス伯爵夫人の肖像画が客席からもそれと分るようにある。
下手から、エリオが出る。それを追ってテオドールが出る。

テオドール 「兄さん、待ってください。何処へ行くつもりなんです。」

エリオを止める。

エリオ  「テオドール。」
テオドール「メレンデス侯爵夫人の所でしょう。」
エリオ  「分っているなら行かせてくれ。」
テオドール「兄さん、どういうつもりなんです。噂になっていることは知っているでしょう。」
エリオ  「知っている。しかし、もうどうすることも出来ないんだ。」
テオドール「兄さん。」
エリオ  「僕はあの人を愛してしまった。もう誰も止めることは出来ない。そう、たとえ神様でもね。」
テオドール「ソニアはどうするんです。彼女はずっと兄さんを……。」
エリオ  「分っている。しかし、もうどうすることも出来ないんだ。」

エリオ、テオドールを振り切って上手退場。
入れ違いに、下手からソニアが出る。

テオドール 「兄さん。(見送って、振り返り)ソニア。」

BGM・カーテン開く。

第六場 メレンデス侯爵邸 C 
 
エルビラが立っている。音楽が流れて来る。エルビラ 歌ソロ。

"イヨ・ノン・ヴィーヴォ・サンザッテーイ"('91年TMP音楽祭より)

エルビラ 『頬よせ合い 時を忘れて
      唯 抱き締め
      いつ 何時までも…』

エリオが下手より出て。重ねて歌う。

エルビラ 『知ってる 二人のときは束の間
エリオ   貴女の温もりが欲しい……』

エルビラ。直ぐに気が付いて歌を止めてしまう。最後の方はエリオのソロになる。

エルビラ 「セルバンティス伯爵。貴方でしたか。」
エリオ  「驚かしてしまいましたか。」

エルビラ、下りて来る。

エルビラ 「今日も、いらっしゃったのですね。」
エリオ  「ご迷惑でしょうか。」
エルビラ 「いいえ。ただ貴方のためには、あまりよろしくないと思いますけど。」
エリオ  「貴方にお逢いしたい。私には、それだけなのです。」
エルビラ 「セルバンティス伯爵。」
エリオ  「エリオと呼んで貰えませんか。メレンデス侯爵夫人。いやエルビラ、私は貴女を……。」
エルビラ 「エリオ……。そこから先は、おしゃっては、いけません。」
エリオ  「分っています。良く分っているのです。しかし、貴女を愛してしまった。
     どうすることも出来ない。」
エルビラ 「エリオ。貴方は伯爵家を守らなければならない方。それにフイァンセの方も、
     いらっしゃるではありませんか。」
エリオ  「ソニアには、すまないと思っています。しかし、貴女に出会ってしまった。
     貴女に愛してくださいとは言いません。許されるはずはないと、わかっているのです。
     ただ、私が愛していることは知っていて欲しいのです。それだけで良いのです。」
エルビラ 「エリオ。私が何時貴方に好意を持っていないと言いましたか。」
エリオ  「エルビラ。」
エルビラ 「貴方に好意を持っているのは確かです。しかし私は夫を愛しています。
     貴方の愛を受け入れることは夫への裏切りになるのです。それが辛いのです。
エリオ  「エルビラ。それ以上何も言わないでください。」

立ち尽くす。エルビラに近づいて優しく抱き寄せる。再び音楽が流れてくる。
エリオ・エルビラの、デュエットの歌からデュエットダンスになる。

  エリオ  『頬よせ合い 時を忘れて
  エルビラ  唯 抱き締め
        いつ 何時までも
        知ってる 二人の時は束の間
        貴方の温もりが欲しい
        それだけで生きて行ける
        貴方の心に触れて
        貴方を抱き締め
        胸を弾ませて 愛しあおを
        息を弾ませて
        こんな夜 幸せを見つけた夜
        時の流れに身を任せ
        二人は炎になる
        目を閉じ 口づけ交わし
        貴方だけが 世界は輝く
        貴方の愛に、抱かれる明日
        貴方だけ』

場所も空間も移動したようなダンスシーンに。
ダンス決まって、優しく甘いキス・シーン。暗転。
下手に、サス・スポット。ファノが立っている。

ファノ  「エルビラの奴も、良くやるさ。あの坊や本気だって言うのに。
     まぁ別に俺にはどうでもいいけど。何を考えてるんだか。俺とも、よりが戻っているんだぜ。
     まぁ俺も、ファニータと別れる気はないがね。」

照明全開。エルビラが残っている。

エルビラ 「ファノ。貴方こんな所へ来て、何をしているの?」
ファノ  「おまえに、会いに来たのさ。」
エルビラ 「私に、(笑って)貴方に言われるとは思わなかったわ。」
ファノ  「さっきの坊やなら良いのか。」
エルビラ 「見てたの。」
ファノ  「どういうつもりなんだ、あの坊や本気だぜ。」
エルビラ 「分ってるわ。」
ファノ  「からかってたら、こっちが怪我するぜ。」
エルビラ 「からかってるつもりはないわ。」
ファノ  「本気か。おまえが坊やに。」
エルビラ 「いけない。」
ファノ  「いいや。甘えたの坊やなんて、おまえらしくないと思ってね。」
エルビラ 「確かに。でも何となく魅かれるの。」
ファノ  「俺よりもか。」
エルビラ 「ファノは別。そうでしょう。」
ファノ  「まぁな。」

二人微笑み合う。トマスが何か品物を抱えて走ってくる。エルビラに、気付いて。

トマス  「エルビラ。」
エルビラ 「トマス。どうしたの?それは。」
トマス  「えっ、えっと。これは……。」

ファノに救いを求める。ファノ笑って。

エルビラ 「いいわ。どうせそんなことだと思ってたし。唯、屋敷の者に、見つからないうちに帰ってよ。」
ファノ  「助かるよ。トマス。」
トマス  「うん。エルビラありがとう。」

ファノ トマス 退場。

エルビラ 「ファノ。エリオ。侯爵。私は一体誰を一番愛しているのかしら。」

音楽。再び一部流れて。カーテン閉まる。

第七場 メレンデス侯爵邸 D カーテン前

上手からメイドAが、ティー・セットを持って出る。
少し遅れて、下手からメイドBが、シーツを持って出る。
中央上手寄りで、二人が会う。

メイドA  「ネェ。聞いた?」
メイドB  「エェ、聞いたわ。」

二人ひそひそ話しをして。

メイドA・B「イャネェー。」

と、相槌を打って、別れる。
メイドB、上手退場。
メイドA、下手に進み。
メイドC、下手から掃除道具を持って出る。
中央下手寄りで、二人が会う。

メイドC  「ネェ。聞いた?」
メイドA  「エェ、聞いたわ。」

再び二人、ひそひそ話しをして。

メイドA・C「イャネェー。」

と、相槌を打って、別れる。
メイドA、下手退場。
メイドC、上手退場。
少しずつ、軽快な音楽が流れて来る。
メイドA・B・C。飛び出して来て。

メイドA 「ネェ。聞いた?」
   B 「ネェ。聞いた?」
   C 「ネェ。聞いた?」

お互いに言うような、客席に言うような感じで。そのまま、メイドのナンバーになる。

メイド達 『侯爵夫人の 恋の話し
      貴方は もう聞いたかしら
      毎日 お出でになるそうよ』

メイド達 「セルバンティス伯爵様。」

メイド達 『侯爵様は お優しいから
      ご存じ無いのかしら?
      奥様の 恋人のこと』

メイドA  「でも、奥様の恋のお話しは初めてでは無いわよ。」
メイドB・C「エッー。」
メイド達  「ハァー。」

と座り込む。

メイド達  「ネェ。聞いた。」

と立ち上がる。

メイドA 「キッチンから、侯爵様が大切にしてた。食器がなくなってるの。」
メイドB 「寝室からも、値打ち物の置物がなくなっているの。」
メイドC 「奥様の、宝石も結構無くなっているの。」
メイド達 「ヤッパリ、泥棒!!」

メイド達 『侯爵様は お優しいから
      ご存じ無いのかしら?』

メイド達 「ハァー。」

と座り込む。突然エルビラの悲鳴がして。

エルビラ 「キャー!!誰か、だれか来てー!!」

メイド達驚いて退場する。暗転。BGM。カーテン開く。





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